研究概要 |
境界観測・境界制御機構をもつ線形放物系における安定化フィードバック制御論についての研究を行った. (1)有限次元補償器(有限次元線形微分方程式系)をフィードバックループに組み込んだ制御機構による安定化論は,1985年には部分的には構築されていた.しかしながら、対応する楕円型作用素の分数ベキの構造についての完全な知識を要請することが大きな難点であった.本研究では, (a)従来のアプローチでは典型的な第1種境界を満たす制御系における適切性(well-posedness)に致命的な欠陥が生じることを示し; (b)新しい代数的アプローチの提唱と無限次元作用素方程式の導入により,上記の困難を克服した. (c)さらに別の代数的アプローチの提唱により,制御系を新しい状態変数をもつ系に(代数的に)変換し,その系を経由しての安定化論を構築した.このアプローチは,知られている安定化論における最も簡単な構造をもつスキームであり,複雑な境界条件を満たすすべての制御系に本質的に適用可能なものであるため,統一的なアプローチ(unified approach)といえる. (2)有限次元補償器を経由せず,境界観測値を直接境界にフィードバックする単純な機構(static feedback)による安定化論を部分的に構築した.この問題は,20数年間未解決の問題として注目されている.ゲインパラメターγを導入し,対応する楕円型作用素における2つの有限次元,無限次元部分構造の整合性の研究を行い,可観測性,可制御性の仮定のもとで,安定化を達成した. 不安定スペクトラムに対するある種の代数的拘束条件を仮定しないと,(γに関する)系の内部特異性が生じる.この代数的拘束条件の除去については,対象となる固有値の数nがn【less than or equal】4の場合(n=5の場合にも一部)には,その多重度に依らずその特異性を打ち消す制御則の設計が可能であることを示した. (この成果は,J.Differential Equationsに投稿中であり,査読第1報を待っているところである.)
|