研究概要 |
次の2項目について研究を進めました: [1]自由境界問題に対する特異項の近似 [2]自由境界問題に対する時間発展解の構成 [1]ここで扱う自由境界問題とは、1980年にAltとCaffarelliによって定式化されたエネルギー汎関数を基とする変分問題を意味します。その汎関数の特徴は、Frechet微分不可能な特性関数項をふくむことです。この特異項のため、エネルギー最小化関数は領域内部に自由境界をもった状態で安定します。さて、このエネルギー汎関数は、上記の意味で正則ではない、また凸ではない、という理由から対応する時間発展解を構成するために、よく知られたBrezisらを中心に構築されたmonotone operatorに対する時間発展解の構成方法を直接適用することは不可能です。そこで考えられるのが、特性関数項を何らかの意味で近似して、その上で既存の理論を適用する手法です。時間発展解のうちでも特に「変分流」(gradientf flow)の構成をめざしており、これに適した特性関数項の近似としてDeGiorgiを中心とするイタリア学派によって構築されたGamma収束の理論を適用する方向で研究を進めました。その結果、自由境界問題に特徴的な「非退化性」を弱い意味で保つ近似の方法について論文の形にまとめることができました。この手法は数値計算の基礎的理論としても意味を持つことが期待されるため、研究費(海外旅費)を用いて、ベルギーのルーベンKatholieke Universiteitにて2006年7月に開催されたInternational Congress of Computational and Applied Mathematicsに於いて口頭発表いたしました。 [2]空間変数の区分的定数化と特性関数のGamma収束近似を同時に用いることによるGradient Flowの弱解の構成と、DeGiorgiによって考案されたMinimizing movement methodと特性関数のGamm収束近似を同時に用いることによるGeneralized Minimizing movement methodの構成の2つの方向で研究を進めました。前者については、Radon測度を含む弱い意味での方程式の構成までを論文の形にまとめ,Med.J.Mにて出版予定になっております。後者については、空間次元が1の場合に限り、Generalized Minimizing movement methodの構成までは完成しました。こうして得られる解は、Gradient Flowとして意味を持ちますが、空間全体を領域とする、いわばNeumann条件下で考えているため、Caffarelli Vazquezらによる近似解の極限関数との差異が明確ではありません。しかし、少なくともこの手法を有界領域のDirichlet条件下で適用すれば,Gradient Flowに特化した手法として意味を持つものと期待できます。現在その方向での意味づけの研究を行っております。
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