研究概要 |
1.多向性(polytropic)気体の運動方程式の初期値問題:1次元モデル方程式において,断熱係数をγとするとき,(γ-1)×初期値(圧力,速度,エントロピー)が十分に小さければ,時間的大域解が存在することを,波面追跡法を用いて証明した.解の存在については,T.-P.Liu氏がすでにGlimm差分法を用いて証明しているが,波面追跡法を用いることにより,漸近安定性も同時に導かれる.また,Glimm差分法による証明に必要な補題のいくつかが大きく簡略化される.さらに,解の一意性の証明(Bressan理論)に至る道が開ける(京都大学数理解析研究所研究集会「流体と気体の数学解析」平成17年7月12日,ENS Lyon, Seminaire EDPA, 16 fev.で発表). 2.多孔性媒質における3相流体現象モデルの双曲性:3相流(例えば,空気,油,水)のStoneモデル方程式系においては,ほとんどの場合に,方程式が楕円型となる領域が存在することを証明した.この方程式系においては,疑似2相流曲線が3つ存在し(Marchesin-Medeirosの結果),ほとんどの場合に,それらに囲まれた領域ができる.その領域の中に,必ず楕円型となる部分があり,疑似2相流曲線は楕円型部分の境界を含む.3つの疑似2相流曲線が1点で交わるとき,その交点は臍点で,方程式は多重双曲系となる.また,表面張力を考慮したStoneモデル方程式系には,境界で退化する拡散項が現れるが,その拡散項は対称化できることを示した(東京工業大学大学院情報理工学研究科「非線形解析セミナー@大岡山」2月4日で発表) 3.Buckley-Leverett方程式の解の漸近安定性:Buckley-Leverett方程式は,保存則方程式の形で,多孔性媒質における2相流体現象モデルの代表である.この保存則の流速は保存量の凸関数でないので,解の漸近形においては,複合波(composite wave)が現れる.初期値がx≦-A, x≧Aにおいて,それぞれ流体1,流体2であるとき,解は有限長さの部分を除き,希薄波に漸近することを示した.希薄波部分は,時間的に一定の割合で広がるので,希薄波の大きさを規格化すると,有限長さの部分は相対的に0に近づき,解は複合波に漸近することが分かる.証明はDafermos氏の波面追跡法による近似解の希薄波に相当する部分を評価することによる.Buckley-Leverett方程式では,流束の変曲点が1つであるが,2個以上の変曲点を持つ流束のモデルについては,以上の議論だけでは,複合波に漸近することにはならない.有限長さの部分の解析を含めて,それらは今後の課題である(ENS LyonとMaryland大学数学教室で研究連絡).
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