研究概要 |
1.多相流体現象モデル方程式の数学解析:空間1次元の等温流体の運動方程式において,初期状態が温度の異なる多数の相を持つ場合の初期値問題を研究し,温度の変化量と初期値の変動量の積が十分に小さいならば時間大域的な弱解が存在することを証明した(D.Amadori, A.Corli両氏との共同研究).すべての相に共通するリーマン不変量は存在しないので,最も低温な相のリーマン不変量を用いて,各相の状態量を評価した.局所評価は,Amadori-Corliのアイディアによる計算を,リーマン不変量を用いて行う.解の存在証明は,波面追跡法によるが,近似解に径路(path)とその上の振幅の定義をより簡明にして大域評価を行った.これは,昨年度の研究成果のひとつである,多向性理想気体の運動方程式の数学解析で用いた方法である.多向性理想気体では,衝撃波の前後でエントロピー変化が起こるが,等温多相流体では,それに相当する変化がないので,解析は幾分か易しくなる. 2.洪水波モデル方程式の数学解析:傾斜角が一定の水路上の流体の運動方程式について,初期値問題を研究した.方程式は双曲型平衡則系で,双曲系の部分は気体定数が2の等エントロピーモデル方程式で,平衡則は緩和型(relaxation)である.フルード数が2より小さければ,緩和型方程式の理論により,十分なめらかな初期値に対しては時間大域解が得られているが,緩和極限をとると,解に不連続性が現れるので,不連続性を許容する弱解の存在定理が必要とされている.本年度の研究においては,Glimm差分法と時間方向に分割差分法を用いて,弱解の存在定理を得た.この方法で得られた解が,緩和極限の解析に使えるかどうかは未知である.分割差分で平衡則部分を近似的に解く過程において,従来から用いられてきた陽的差分解の代わりに,その度に非線形方程式を解いて近似解を構成する,陰的差分解を導入することにより,その過程において,近似解の変動量が増えないことが容易に証明される.
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