スペイン国カナリア諸島の望遠鏡群において、観測を2005年7月3日から14日にかけて実施した。観測には、テネリフェ島にあるドイツ国の真空塔望遠鏡VTTに設置された2つの偏光測定装置(可視光、近赤外)、ラパルマ島にあるスエーデン国の太陽望遠鏡SSTおよびオランダ国のオープン望遠鏡DOTで高空間分解能の撮像観測装置が使用された。本研究はカナリア諸島天文台の2005年国際共同観測プログラムとして採択された(PI:勝川)。これらの望遠鏡によって、太陽低層大気(光球、彩層)の磁場・速度場に関する観測情報が得られる。さらに上空の大気であるコロナの様子を捉えるために、本観測期間中、NASA/ESAの科学衛星で国際的に共同観測を推進しているTRACE衛星およびSOHO衛星搭載の太陽望遠鏡を同じ観測ターゲットに向けてもらった。衛星観測の調整・実施は、米国の共同研究者を通して実施した。 観測期間中、清水はテネリフェ島真空塔望遠鏡に、勝川はラパルマ島のスエーデン太陽望遠鏡に滞在し、観測ターゲットの選定、観測の実施を、欧州研究者・技術者の協力の下で行った。期間中晴天に恵まれ、活動領域10781を始めとして複数の活動領域を観測することが出来た。シーイング(大気ゆらぎ)は非常に限られた時間ではあるが良好であり、良好なシーイング条件のもとで磁場データや高分解能撮像データを取得することができた。VTTで取得されたデータ総量は200Gバイトを超える膨大なデータとなった。 データ取得後、様々な観点からデータ解析を行っている。清水は速度5-12km/sという高速の下降流がVTTの偏光測定データに多数見られることを発見した。これは今まで認識されていなかった新しい現象である。偏光データは、偏光の状態を表すStokesベクトルをスペクトルの形で測定したデータである。高速下降流は黒点周辺のモート(堀)領域と呼ばれる領域に観測され、3回のスキャンデータに20例を超えるイベントが存在した。サイズは1秒角以下と極めて小さい。コロナでは対応する現象は観測されておらず、恐らく光球上部から彩層下部における磁気リコネクションによるアウトフローが検出されたものと考えられる。光球での音速5km/sよりも速いが、アルベン波15km/sよりもゆっくりな超音速流である。
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