連星中性子星の合体は、最も有力な重力波源である。しかしその重力波検出において予想される信号の振幅は、検出器の雑音に対して高々10程度と予想されている。このような重力波を捕らえるには精度の良い理論的波形の予想が必要とされる。本研究は、現実的な初期条件、状態方程式を用いて完全に一般相対論的シミュレーションを実行し、連星中性子星の合体中及び合体後の進化を明らかにし、予想される重力波の波形を求めることを第一の課題とした。連星中性子星の合体は重力波源であるのと同時に、継続時間の短いガンマ線バーストの発生源を形成させる母天体としても有力視されている。ガンマ線バーストは、太陽質量の数倍の質量を持つブラックホールとその周りを取り囲む高温・高密度のトーラスから発生すると考えられているが、こういった天体が合体後に誕生するものと推測されている。しかし、実際にこういった天体が誕生するのか全く自明でない。それを数値シミュレーションで証明して見せるのも本研究の課題とした。 これらの課題を調べるため、本年度は現実的状態方程式を用いて合体に対する一般相対論的シミュレーションを実行した。その結果、以下のような結論を得た:1)系全体の質量がある閾値よりも大きい場合には、ブラックホールが合体直後に形成されるが、小さい場合には、楕円型の高速回転・大質量中性子星が形成される。質量の閾値は状態方程式に依存し、太陽質量の2.5〜2.8倍程度の値を取る。2)ブラックホールが形成される場合には、合体中に目立った振幅の重力波は放射されないが、中性子星が形成されれば、3kHz程度の周波数を持つ準周期的重力波が数百サイクル放射される。それは十分な振幅を持つので、次世代レーザー干渉計で検出可能と予想される。3)大質量中性子星は、重力波放射によって角運動量を失い、100ミリ秒以内にブラックホールへと重力崩壊すると考えられる。 ところで上述のシミュレーションでは、磁場の効果は全く考慮されていない。中性子星が仮に大きな磁場を持つ場合、その効果が合体に影響を及ぼす可能性がある。特に合体後形成される大質量中性子星は差動回転しているため、磁場によって影響を受けやすい。そこで本年度の後半は磁気流体シミュレーションを実行して、磁場が強い場合の大質量中性子星の進化を調べた。そして、磁場強度が10兆テスラを超えるような場合には、磁場による角運動量輸送のため100ミリ秒以内にブラックホールへ重力崩壊することを明らかにした。また重力崩壊に伴って、ブラックホールの周りには、高温・高密度のトーラスが形成されることも明らかになった。このような天体は、ガンマ線バーストの発生源になりうる。これはガンマ線バーストの発生天体の形成過程を世界で初めて実際に示した研究である。
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