1.クオークの閉じ込めとグルーオンの質量 強い力を記述する量子色力学はクオークとグルーオン間のゲージ相互作用の理論である。ところでこの系の特徴は、実験的にはカラーと呼ばれる量子数がゼロでない粒子が観測にかからないという事である。特にクオークはその典型的な例であり、この性質をクオークの閉じ込めと称する。問題はこの性質を理論的に証明することである。 さてゲージ理論ではそのラグランジアンはユニークではなく、通常ゲージパラメターと呼ばれる任意定数を含み、観測可能な量はこのパラメターに依存しないと考えられてきた。この研究では、これが本当かどうかを調べられたのである。量子電気力学ではこのパラメター独立性が成り立つが、量子色力学では実はパラメターの値が負の値を採る時には、それ以外の値を採る時と異なりカラーの閉じ込めが成立し、且つグルーオンの質量がゼロでない有限の値になる事が証明される。これがこの研究の結論である。 2.非可換幾何学における場の理論 非可換幾何学においては座標同士が量子揺動の為に可換ではなくなると考える。このような非可換座標の関数としての量子場はどのような性質を持つかを調べるのがこの研究の目的である。その為にここでは非可換座標を通常の可換座標と揺動部分との和として表し、通常の可換座標の場に揺動を注入するという方法で非可換場の理論を建設する。これは可換場から非可換場への写像に相当する。そこでこの揺動を量子的ずれと名付け、その数学的性質を調べ、それによって非可換場が可換場からどのようにずれるかを調べる。特に、非可換場に対するS行列がローレンツ不変性からどのようにずれるかに関する考察を行う。
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