研究概要 |
近年計算された束縛系QED2次補正項を実験的に検証するため、オルソポジトロニウムの崩壊率の精密測定を行った。まず、従来の測定でボトルネックであった統計を改善するために、セットアップを抜本的に見直し、YAPシンチレータに基づく高速なシステムを構築した。 このセットアップを用いて実際に2回の測定を行った。これらの測定では、物質の効果の系統的なテストのため、以下のように異なる減速材を使用した。 *RUN I 減速材:シリカエアロジェル データ収集期間:2.3ヶ月 *RUN II 減速材:シリカパウダー データ収集期間:3.1ヶ月 収集されたデータは、それぞれの測定で統計誤差にして約130ppmである。 物質の効果を直接測定し補正する実験手法を用いた。測定されたpick-off ratio(物質との相互作用による対消滅の割合)は、RUN I(シリカエアロジェル)約3%、RUN II(シリカパウダー)約1%と大きく異なった。これは、シリカ粒子間距離といった物質の内部構造の違いによるものと考えられる。 2回の測定で得られた崩壊率は、それぞれ *RUN I 7.03876+-0.0009(stat.)+0.0008-0.0010(sys.) μs-1 *RUN II 7.04136+-0.0009(stat.)+0.0007-0.0007(sys.) μs-1 であり、2つの測定値は1.6σで一致する。また、これらを合わせた結果は以下のようになる。 *RUN I, II 7.0401+-0.0006(stat.)+0.0007-0.0009(sys.) μs-1 実験誤差は約150ppmであり、既存の実験で最も精度が高い。 本実験の測定値は1995年以降の3つの実験とコンシステントであり、2000年に計算された束縛系QEDの2次補正項を含む計算値と一致する。一方、1次補正までの計算値と本実験の測定値との差は1.7σであり、過去4実験の世界平均値とは2.6σの差となる。 従って、測定された崩壊率は計算された2次補正項を支持していると結論される。
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