素粒子の標準理論において、ヒッグス粒子は電弱対称性の自発的破れを起こしかつ素粒子の質量の起源を与えるという中心的な役割を果たす。一方、ヒッグス粒子の理論には2次発散の量子補正による階層性問題という理論的に不可解な点があり、この問題を解消するものとして例えば標準理論の超対称理論への拡張がTeV領域以上での物理として最も有望視されている。しかしながら、ヒッグス粒子は未だに発見されず、近年その質量に対する下限として(エネルギー換算で)114GeVという値が実験から与えられたことにより、超対称理論に拡張しても階層性問題が完全に解消されるわけではないことが指摘され、多くの議論を呼んでいる。 一方、素粒子の質量には大きな階層的構造があり、特にトップクォークの質量が突出しており電弱対称性の破れのスケールに非常に近いことも非常に興味深いなぞである。実は、先の階層性問題にはトップクォークの質量が大きいことがその要因のひとつになっている。 これらの階層性に絡む問題に対して、対称性の小さい破れと考えるのではなく、何らかのダイナミクスによる自発的な構造として理解されるのではないか、という立場で研究を進めてきた。そのため場の量子論の繰り込み群的な特性の研究という側面も同時に併せ持つ。今年度は、超対称標準模型および標準模型のヒッグスセクターの階層性問題を解消もしくは緩和する新しい現象論的なシナリオについての研究を行い、超対称模型については既に論文として発表した。超対称を持たない新しいヒッグス模型については、国際会議SCGT06において発表をおこなった。現在、関連する2編の論文を投稿中である。一方、クォーク・レプトンの質量間の階層的構造がダイナミクスによって生じるようなある模型を提案し、その現象論についての研究を行った。
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