超対称標準模型に内在するμ問題の現象論的観点からの検討は、超弦理論の有効理論の解明に重要な契機を与える可能性を持つ。今年度は、μ問題の解と宇宙のバリオン数や暗黒物質の起源との関係を中心に焦点を絞り研究を進めた。本研究において得られた主たる成果の概要は、以下の通りである。 1.μ問題への解を中間エネルギースケール以下の領域で求める場合、平坦なポテンシャルを持つ場の存在はその重要な可能性の1つである。この平坦なポテンシャルを持つ場は、多くの場合、新しい大域的U(1)対称性の存在をもたらす。本研究ではこの対称性に基づくバリオン数生成の新たな可能性を指摘した。さらに、このシナリオで生成されるバリオン数は、模型に一定の構造を要請することにより、暗黒物質や暗黒エネルギーと定量的な関連付けを行うことができることを指摘し、その具体例を与えた。 2.TeV領域に付加的U(1)ゲージ対称性を持つ模型は、μ問題を解決し得る。その際導入される1重項フェルミオンは付加的U(1)のゲージーノが十分に重い場合には、最も軽いニュートラリーノの主要な成分となり得る。このような状況が起こり得る条件について検討し、さらにこのニュートラリーノの残留量が暗黒物質の観測量をうまく再現する可能性について検討した。 3.バリオン数非対称性の起源の有望な可能性であるレプトジェネシスは、超対称模型の枠組においてグラビティーノ問題という深刻な問題を抱えている。この問題に関連して、重い左巻きニュートリノの崩壊においてCPの破れを最大限に実現し、かつニュートリノ振動の実験データを説明し得る模型を提案した。さらに、この模型に基づきレプトジェネシスに際して要求される再加熱温度について検討し、グラビティーノ問題を回避できる可能性を示した。
|