(1)米国のブルックヘブン研究所にある高エネルギー重イオン衝突加速器RHICでの実験およびその後の流体模型を用いた解析は、生成された高温状態の物質がほとんど理想流体として振る舞うことを示唆している。このことは生成されたQCD物質が非常に強く結合した物質であることを意味している。実は、このような強い相関の存在は相転移の臨界点近傍ではむしろ自然なことであり、臨界温度より高温QGP相においてハドロン的励起の存在の可能性さえある。本研究ではこのような臨界点近傍のハドロン的な集団励起であるカイラル相転移のソフトモードが系の基本構成要素であるクォークの準粒子描像自体を変更する可能性を探った。その結果、熱的に励起した質量有限のカイラルソフトモードとクォークおよび熱的に励起した反クォークの「孔(ホール)」の「共鳴散乱」により、クォークは新奇の集団性を獲得し、その結果クォークスペクトル関数にゼロエネルギー付近に新たなピークが現れ、スペクトル関数は3個のピークを持ち得るということが明らかになった。このことはクォークの性質がカイラル相転移の臨界点近傍で自由気体描像や超高温で成り立つHard-Tharmal Loop(HTL)近似が描くものから大きくずれるということを意味する。 (2)生成された物質の動的な振る舞いを記述するために不可欠である散逸を含む相対論的流体方程式を導出した。また、その得られた方程式が粒子フレームにおいても安定な方程式であることを明らかにした。このことは、所謂相対論的散逸流体方程式に関する長年の懸案を解決した可能性があることを意味する。
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