二次元ホール電子系で位相的なスピン励起が観測されていることに見るように、量子力学的な輸送現象にはソリトンや渦糸のような位相的な励起が現れ、主要な役割を演じることが多い。他方、素粒子論においても位相励起は重要な研究対象であり、特に弦理論の進展の中では様々な次元の位相的な励起を自在に取り扱うようになってきた。このような状況を踏まえて、研究代表者は平成17年度には主にゲージ理論・弦理論に現れる多様な位相励起の量子的な特性を(特に、超対称性との関わり合いのなかで)研究した。その内容は以下の通りである。 1.位相的な励起が現れる超対称理論では超対称代数(の位相荷など)に量子異常が生じうることが知られている。新種の量子異常であり、位相的励起の真に量子的な性質を解明する鍵ともなるので、近年少なからぬ関心が向けられている。このような位相荷の量子異常を超場を用いた明白に超対称な枠組の中で定式化し、ソリトンやドメイン・ウォールの量子的な特性を解析した論文を既に発表しているが、今年度は超場を用いた考察を磁気単極子の場合に拡張した。これらの考察を通して、一般に量子効果の様子は励起の種類や時空の次元とともに大きく変化することを知った。さらに、スケール変換と超対称性を組み合わせると、種類や次元の異なる様々な位相励起の量子効果を解析する統一的な枠組が構成できることに気付いた。 2.上記テーマの発展として、ドメイン・ウォール上に拘束された世界やコンパクトな次元を持つ世界を記述する実効理論の研究を試みた。高次元の理論から4次元世界のカイラル対称性を導き出すには位相的な励起の存在とか、非自明な位相構造(オービフォールド)をもつ時空を想定することが必要となる。部分的な成果であるが、現在までにオービフォールド上の場の理論の量子異常をベリー位相を用いて直感的に理解することができた。
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