二次元ホール電子系で位相的なスピン励起が観測されていることに見るように、量子力学的な輸送現象にはソリトンや渦糸のような位相的な励起が現れ、主要な役割を演じることが多い。他方、素粒子論においても位相励起は重要な研究対象であり、特に弦理論の進展の中では様々な次元の位相的な励起を自在に取り扱うようになってきた。このような状況を踏まえて、研究代表者は平成18年度にはゲージ理論に現れる多様な位相励起の量子的な特性を(特に、超対称性との関わり合いのなかで)研究するとともに、特異な量子ホール効果が観測されている新電子系の研究を開始した。その内容は以下の通りである。 1.前年度までに研究代表者はソリトン、ドメイン・ウォール、渦糸などの位相励起について、その量子的な特性を超対称代数の位相荷量子異常との関連を通して考察してきた。引き続き今年度には、スケール変換と超対称性を組み合わせると、種類や次元の異なる様々な位相励起の量子効果を解析する統一的な枠組が構成できることを示し、論文として発表した。 2.近年グラフェン(graphene)と呼ばれる新2次元物質に実験・理論両面から強い関心が向けられている。グラフェンは炭素原子の単一層からなる理想的な2次元電子系であり、その低エネルギーにおける輸送特性が質量ゼロのディラック方程式に従う擬粒子により記述できるという著しい特徴をもつ。グラフェンは言わば"相対論的"な物性系であり、素粒子論研究者にとっても極めて興味深い。研究代表者は平成18年度の半ばにこのグラフェンのことを知り、直ちに関心を持った。そして、場の理論に固有な粒子・反粒子描像や量子異常の観点から、磁場中のグラフェンの電磁応答を考察し、グラフェンが特異な誘電体であることを指摘する論文を発表した。
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