1 QCD相図上には、その相転移が特異性を持たないcross overから、一次相転移に移り変わる点であるcritical end point (CEP)が存在する可能性が示されている。相転移論によれば、このCEP近傍における特異性は、3次元Ising模型と同じユニバーサリティに属する。この事実に基づいて、有効自由度が異なる2相間の相転移線上にCEPが存在する場合の一般的な状態方程式を導き、CEPは系の時間発展に際して、相図上でアトラクターとして働くことを見出した。更に、その状態方程式と時間的に定常でない系の臨界現象に対する一般論により、高エネルギー原子核衝突における揺らぎなどの観測量に対するCEPの影響などを議論し、通常信じられているCEPのsignatureは、それほど強く現れないこと、また、RHICにおいて観測されている異常に低いkinetic freezeout温度はこの枠組みで理解できること、などを示した。 2 RHICにおいては、経験的に完全流体を仮定した流体計算、つまり粘性係数をゼロとおく近似を用いて観測量をよく説明できることが知られている。この事実は、クォークグルーオンプラズマは、強い相互作用の漸近自由性により弱く相互作用しているクォークグルーオン系であるという期待と反する。また、RHICにおける、異常に早い熱平衡への接近を説明するために、色磁場に対する不安定性がその機構として提案されてきた。我々は、この色磁場による輸送機構により、粘性係数が異常に小さくなることを示した。この研究は現在発表準備中である。
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