研究概要 |
コンパクトなEinstein多様体および特殊ホロノミー群を持つRiemann多様体の幾何学をブラックホールの視点から研究することを目標とした.このような幾何学は物理的には,高次元のゲージインスタントンそして重力インスタントンと捕らえられるものであり,超弦理論やM理論の最近の進展から予想される幾何学の新しい方向を探ろうとする問題意識と深く関わっている.特に,コンパクトなSasaki-Einstein多様体に関しては,重力理論/ゲージ理論対応を使って超対称ゲージ理論の強結合領域を調べることができるため,最近大きな注目を集めている,主な研究成果は以下のとおりである. 1.4次元Tod-Hitchinオービフォルド空間を底空間とするSU(2)束に3-Sasakian計量を構成した. 底空間のオービフォルド特異点は全空間では解消されスムーズな7次元Einstein多様体を得ることができた.重力理論/ゲージ理論対応から,この解には3次元超対称ゲージ理論が対応する.双対性を利用してゲージ理論側での非摂動的な性質を調べることができるようになった. 2.6次元de Sitter NUTブラックホールのBPS極限からCalabi-Yau計量を複素線東上に構成した.この計量は4次元の重力インスタントンの自然な高次元拡張とみなすことができる,また,計量は10次元超重力理論のBPS解として埋め込むことができ,超弦理論のブレーン解として解釈される. 3.Sasaki-Einstein計量を持つ5次元多様体が与えられると,ブレーンタイリング(あるいはダイマー)と呼ばれる手法を用いて双対な超対称ゲージ理論を構成することができる.ブレーンタイリングはトーラス上に描かれた図形であり,そこにはゲージ理論の情報が織り込まれている.我々はこの手法を使って,新しい無限シリーズのクイバー・ゲージ理論を構成した. 4.1986年Myers-Perryによって発見されたRicci平坦なD次元Kerrブラックホール解は,2004年Gibbons-Lu-Page-Popeによって宇宙定数を含む(Anti)de Sitter Kerrブラックホールに一般化された.さらに,2006年Chen-Lu-Popeは質量,角運動量,宇宙定数に加えNUT変数を含む最も一般的と思われるブラックホール解を発見した.しかしながら彼らの計算はコンピュータを使ったものであり解析的な存在証明は与えられなかった,我々は直接曲率テンソルを計算しEinstein方程式の解であることを証明した.
|