前年度までに、(π^-、K^+)Σハイペロン生成包括反応スペクトルの解析を具体的な課題として開発してきた半古典的歪曲波法を、他の反応過程に適用する研究を行った。一つは、(K^-、K^+)Ξハイペロン生成包括反応への適用であり、高エネルギー加速器研究機構のJ-PARC計画で行われる最重要実験課題の一つに対応する。半古典的歪曲波法の利点を生かした計算により、素過程のエネルギー依存性の効果および核子のフェルミ運動を考慮することが重要であることを明らかにし、反応断面積の角度依存性にどのように反映されるかを示した。ここで対象とした昔の実験データは精度が十分ではなく、今後のJ-PARC実験のデータにより原子核中のΞハイペロンの性質が明らかになることが期待される。もう一つは、光子によるη中間子生成スペクトルの記述である。η中間子がS_<11>(1535)共鳴状態と強く結合する事実はよく知られていて、この中間子の振る舞いを通じて原子核物質中でのS_<11>状態の情報を得ることができる。入射光子を平面波で記述すれば半古典的歪曲波法により(γ、η)スペクトルが計算できる。これまでの計算で、ほぼ実験結果に対応したスペクトルが得られることがわかり、それを基にη中間子のポテンシャルの詳細についての議論が可能になった。 原子核内でのハイペロンの一体ポテンシャルの性質を、ハイペロン-核子2体相互作用の性質に関連付けるには、原子核における有効相互作用理論を用いなければならない。高運動量成分を繰り込み、低運動量空間内の等価相互作用として用いる方法をハイペロン-核子相互作用に対して適用する研究を行い、中間子交換描像およびクォーク描像に基づく現状でのポテンシャル模型がどのような差異を持つかを調べた結果を論文として発表した。
|