今年度は、研究の目的である(1)電子の媒質中での多重散乱をあらわす電子間有効相互作用(G-行列)、および(2)量子ドットの応答関数、の2方向に対して次のような研究実績を上げることができた。 (1):まず、電子系においては、クーロン力が長距離力であるために、2次以上の多重散乱による部分を、近距離相関を表すG-行列と定義し、これと(1次の)クーロンポテンシャルを同時に扱っていく必要がある。今年度は、原子核においてアイソスピンについて偏極した媒質中でのG-行列の計算の手法を電子系に対して適用した。その結果、G-行列の運動量空間での要素は、相互作用する2電子のスピンの方向、及び媒質中のスピン上向き電子と下向き電子の密度、に依存する形で得られた。その依存性はかなり複雑なので、まずは、そのようなG-行列を一般に、スピン空間において、スカラーだけでなくベクトルなどの構造を持つ2体のゼロレインジの相互作用であるSkyrme型有効相互作用として表す方向の研究が進行中である。 (2):量子ドットは2次元の有限個の電子系であるが、その応答関数を調べる前に、2次元のバルクの電子系について応答関数の計算を、拡張されたRPAの手法を用いて行った。その結果、電子密度によってはRPAとはまったく違った応答が得られることがわかった。この計算ではRPAを超える効果のかなりの部分が有効相互作用に繰り込めそうなので、応答関数の計算結果も援用することにより、単純な多重散乱の足しあげであるG-行列を補正する方向で研究を進めている。
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