研究課題
平成18年度は、初年度の超新星爆発でのニュートリノ過程による元素合成の研究成果と、新たに始めたニュートリノ・原子核反応断面積の研究成果を組み合わせ、ニュートリノ振動パラメータの決定精度の向上に焦点を当てた。超新星爆発直後の外層(炭素・酸素層、ヘリウム層)では、ニュートリノ球から放射される大強度の熱的なeμτ型ニュートリノと原子核との相互作用により、ヘリウム4と炭素12の破砕過程から多量の自由中性子、陽子、トリチウム、ヘリウム3などの軽い原子核が作られる。この状態は超新星コアの脱レプトン化が進行する約10秒間継続する。コアバウンスによって生じた衝撃波面の近傍は局所的に高温高密度であるために、外層(炭素・酸素層、ヘリウム層)を通過する間、ファウラー・キャメロン過程(t+α→Li7+γ,He3+α→Be7+γ)およびこれに続くα捕獲反応によって、リチウム(Li7)やボロン(B11)が多量に作られる。したがって、こうしたニュートリノ反応によって引き起こされる新しい元素合成過程は、実験で直接測定できないニュートリノ・原子核反応断面積の大きさに強く依存することになる。これまでの研究によって、軽元素の生成量がニュートリノのエネルギースペクトルを特徴付ける温度に非常に強く依存することが見つかったが、これに加えて、ニュートリノ・原子核反応断面積に対する依存性が、ニュートリノ振動パラメータ決定の障害になりうる。第一に、温度依存性に起因するニュートリノ振動パラメータの不定性は、天文観測から明らかにされているボロンの銀河化学進化、および、プレソーラー・グレインに見いだされたボロンのアイソトープ比(B11/B10)の両者を定量的に再現する理論計算によって排除されることを見いだした。第二に、実験的に未決定のニュートリノ・原子核反応断面積依存性に起因するニュートリノ振動パラメータの不定性に関しては、個々のリチウム(Li7)とボロン(B11)合成量には確かに強く残るけれども、元素組成比Li7/B11では互いの依存性が打ち消し合って極端に弱くなることを見いだした。さらに、原子核の磁気モーメント、ミュー粒子捕獲断面積、磁気多重極遷移、等の電磁気的な測定量を再現するような原子核殻模型ハミルトニアンを用いれば、弱電磁気相互作用の標準模型によるこれらの物理量の理論計算から不定性を大きく排除できることが明らかにされた。これらの研究により、未知の振動パラメータ(混合角θ13、および、質量階層)の決定精度は格段に向上した。また、天体観測および隕石の定量分析による理論の検証方法を提案中である。
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