本年度は、SrTi^<16>O_3の40K以下で実現されると思われる量子常誘電状態の動的出現機構を詳細に調べる目的で光散乱実験を行った。量子常誘電状態では、素励起が存在するはずのない横波音響波よりも低い周波数領域に、"ブロード・ダブレット"(BD:約20GHz)という光散乱ピークが現れる。 1.BDの平均自由行程から、量子常誘電相を特徴づける長さのスケール(27Kで50nmのオーダー)が在りそうだと結論した。 2.酸素を^<18>Oで置換したSrTi^<18>O_3(T_c〜25Kで強誘電性相転移をすると考えられている)の強誘電相で、部分的にソフト化する横波音響フォノンの光散乱スペクトラムがSrTi^<16>O_3のBDのものと極めて類似していることを見いだした。すなわち、SrTi^<16>O3の量子常誘電相の中には動的に50nm程度の長さのスケールを持った強誘電体領域(SrTi^<18>O_3の強誘電相と同じ対称性を持つ)がすでに存在しており、BDはその中を進むソフト化した音響フォノンである可能性が高いという仮説を提唱することができた。 3.さらに、ごく最近、自由電子(Nb^<5+>)をドープしたSrTi^<16>O_3において、量子常誘電相だけで励起されている新たな光散乱ピーク(NP:約140GHz)を発見した。そして、NPの平均自由行程は、やはり長さのスケールの存在を示唆している。しかも、BDとNPとから求まる長さのスケールは、温度依存性と異方性をも含めて、両者で極めて類似していることも明らかにした。つまりSrTi^<16>O_3の"量子常誘電状態は異方性を持つ単一の長さのスケールで特徴づけられている"と判断される。 以上のことからも分かるように、量子常誘電状態そのものの基礎情報が、まだまだ不足していると判断しており、圧力下でのスペクトル解析に優先して、常圧で実験を遂行している。
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