本研究の目的は、垂直分極を持つ表面界面からの光学応答スペクトルの第一原理に基づく計算方法を開発し、有機分子/半導体界面などの光学物性解明をとおしてスペクトル形状の一般理論をつくることである。本年度得られた知見は以下である。 1.垂直分極による光学応答スペクトル形状の解明: 強結合電子状態を用いたスペクトル計算を様々な表面界面系で行い、誘電関数の逆関数を用いたスペクトル起源の有効な解析法を開発した。特にこの手法を用いて、(1)半導体表面においては、数原子層の凸凹構造が存在しても垂直分極は水平分極の高々10%、つまり全応答スペクトルの10^<-4>程度しか寄与しないこと、(2)表面に吸着した有機分子系においては、垂直分極の非対角成分が水平分極を打ち消し、分子が元来持っていた共鳴吸収のスペクトルピークを消滅させる仕組みを明らかにした。 2.アミノ酸/半導体界面における光励起スペクトルの検討: アミノ酸が吸着した半導体表面においては、アミノ酸のHOMO軌道から半導体の伝導帯への光学遷移が発生しアミノ酸をイオン化すること、特に価電子帯のエネルギー位置が低いGaNなどを基板に用いると遷移がバンドギャップ内に現れイオン化効率が高くなることを示した。 3.荷電表面における吸着分子の分極の解明: 光励起により正に帯電したTiO2表面への水分子の吸着を調べ、帯電時には分極エネルギーを得するように酸素を界面に近づける配位で吸着すること、その吸着エネルギーは中性時の約4倍と大きく室温でも脱離しないことを明らかにした。
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