本年度は、低エネルギー電子線(15-50eV)を励起源として用い、電子線照射前後におけるSi(111)一(7x7)表面構造をトンネル顕微鏡により直接観察した。その結果、このエネルギー領域の電子線照射により、表面アドアトム原子の結合が電子的に切断され、空格子点が生成される事を明らかにした。この結合切断現象の質的・量的特徴を明らかにするため、発生する空格子点の密度、空間分布及びサイズ分布を統計的に解析した。その結果、(1)空格子点密度が照射ドーズ量に比例して増大する事、(2)生成される空格子点の8割以上が孤立空格子点である事、(3)空格子点生成効率に強いサイト依存性がある事、が分った。さらに、空格子点サイズ分布に関して、実験より得られた結果と模擬計算した結果との比較を行った結果、結合切断効率に空格子点の影響はほとんど無く、この結合切断現象が、完全格子サイトにおいて発生する独立な事象である事が明らかとなった。この結果は、電子線励起による結合切断が半導体表面擬2次元構造相に固有の現象である事を明確に示している。さらに、電子線誘起結合切断の効率について以下の特徴を明らかにした。 1)結合切断効率は励起強度に対して線形に増大する。 2)15-50eVの領域において、電子線エネルギーの増大に対して効率が急激に減少する。 これまでの研究より、光照射を用いた価電子系の個別励起によってアドアトム原子結合の切断が発生する事がわかっている。光励起及び電子線励起による構造変化の特徴を比較検討した結果、発生する空格子点のサイズ依存性及びサイト依存性の結果は両励起源で同一であるが、一方、結合切断効率の励起強度依存性の振舞いが異なる事が分った(光励起の場合、結合切断効率は励起強度に対して強い非線形性を示す)。これらの結果は、観測される結合切断を誘起する価電子励起の形態が両励起源で異なっていることを強く示唆している。
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