研究課題
基盤研究(C)
本研究では、数eVから10eV程度のエネルギーを有する低エネルギー電子と固体との相互作用機構の物理的解明のため、10eV程度のエネルギーを持つ高分解能低エネルギー電子ビーム励起による半導体表面の構造的応答に関する研究を展開し、以下にあげる重要な結果を得た。1)Si(001)-(2x1)表面における低エネルギー電子線によるSi-Hのボンド切断機構を研究した。入射電子の非弾性的電子励起が、Si-Hボンドの結合性から反結合性状態への遷移を誘起し、切断に支配的な寄与をする。さらに、電子線照射下において、バルク水素原子の表面への拡散、表面Si原子との再結合過程が結合切断と競合して発生ることを初めて示した。2)表面原子が3配位結合形態を示すSi(111)-(7x7)においては、7.5eV以上のエネルギーを有する電子ビームの励起によって、最上層adatomのボンド切断が発生する。その効率は、Si結晶内で非弾性的に電子系を励起できるエネルギーに換算して、12eVのところで最大値を示し、それ以上でも以下でも、急速に減少する。発生したadatom空格子点の空間相関は、レーザー励起による2正孔局在によって発生する特徴と同一である。ボンド切断効率が最大値を示すエネルギーは、Si結晶のプラズモン励起エネルギーに対応しており、上記結果は、プラズモン生成によるボンド切断を初めて実証した重要な結果である。プラズモン生成に伴う電荷の疎密波によって表面原子サイトに2正孔局在を誘起できるだけの正孔濃度分布が発生し、adatomのボンド切断に至ると考えられる。3)STM探針からのキャリア注入によるInP(110)表面原子結合の切断を観察し、正孔が電子的結合切断に関与する励起種であることを実証した。効率は、トンネル電流値の2乗に比例しており、2正孔局在が結合切断を支配していると考えられる。
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