研究課題/領域番号 |
17540307
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
那須 奎一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (90114595)
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研究分担者 |
富田 憲一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助手 (70290848)
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キーワード | 光誘起相転移 / 超常誘電性 / ラージ・ポーラロン / ソフト・フォノン / 数値シュミレーション / SrTiO3 |
研究概要 |
この光誘起「超常誘電性」相転移に関し、現段階までに観測されている事実は、以下の4点である。(a)4eV付近の紫外光で線形励起すると、これらの物質の準静的誘電率は10^3〜10^4程度、巨視的に増大する。(b)酸素の2p軌道から、金属カチオン(Ti^<4+>)の3d軌道へ、電子が光励起され、同時に金属カチオンの周囲の空間反転対称性は、巨視的に消失する。(c)但し、完全な強誘電的長距離秩序が実際に凍結して現れるには到らない。(d)更に、光励起と同時に、高い移動度を有する負の荷電担体が発生し、この物質の電気伝導度は急激に増大する。 これらの状況から、本研究では、光で生成した3d伝導帯電子が、この物質に固有の誘電型ソフト(TO)・フォノンと、線形ではなく、2次で非線形に結合し、超常誘電性ラージ・ポーラロンを形成すると考える。このラージ・ポーラロンは、言い換えれば、電子を内包し、不断に揺動しつつ伝導する強誘電性ドメインでもある。従って、本研究では、この超常誘電性ラージ・ポーラロン理論により、大規模数値シュミレーションを実行し、この非平衡相転移の微視的機構を理論的に解明した。周知の如く、ポーラロンとは、電子がフォノンと結合して形成する準粒子である。このポーラロンの理論的研究の歴史は長く、これまで、物性物理学に幾つかの重要な寄与を与えてきた。しかし、これらの理論は、電子とフォノンとは線形に(一次で)結合するという暗黙の前提に立っていた。ところが、この線形結合の枠内では、光励起された電子は、周囲の格子を変位させるのみで、誘電率の増大は決してもたらさない。印加された外部電場の方向と大きさに応じて、如何様にも変位できる格子の極めて不安定な状態のみが、誘電率の増大を齎すのであり、完全に安定な変位が起きてしまえば、誘電率は逆に減少する事も判明した。 この理由から本研究では、3d伝導帯電子が強誘電的ソフト・フォノンと、一次ではなく、2次で(非線形に)結合すると考えた。単純な事ではあるが、これが大きな特色であり極めて独創的な点である。この2次の電子格子結合の結合定数が、負であると考えれば、電子は、周囲の格子を極めて不安定にはするが、決して安定した格子変位をもたらさない。結局、この2次の電子格子結合と3d電子の強い遍歴性が相俟って、誘電率の巨視的増大、空間反転対称性の巨視的破綻、電気伝導度の増大が生じる。かくして、光誘起「超常誘電性」相転移の微視的機構が理論的に解明され、その意義は極めて大きい。
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