層状コバルト酸化物Na_xCoO_2や水を挿入した超伝導体Na_xCoO_2・yH_2Oでは、CoO_2面が2次元三角格子を形成して幾何学的にフラストレートしており、またフェルミ面を切るバンドが3個のd(t_<2g>)軌道から構成され、多軌道、多バンドの特徴を持つ。本研究では、Coのd軌道5個とCo面の上下にある0のp軌道6個を全て考慮に入れ、バンド計算を再現する現実的な2次元三角格子llバンドd-p模型を導出し、動的平均場理論、スレーブボソン法、乱雑位相近似、Hartree-Fock近似を相補的に用いてCoO_2面の電子状態を調べ、以下のことを明らかにした。 1.Coのd電子の強相関効果によりalgバンドが繰り込まれて狭くなると同時に、eg'バンドがフェルミレベルよりも下に押し下げられホールポケットが消失する。これはARPESの実験結果とコンシステントである。 2.水の挿入によりtrigonal歪みが増大し、eg'バンドのホールポケットが出現する。このとき、alg軌道とeg'軌道のギャップ関数が逆符号となる一重項s波の超伝導が実現する。これは、ナイトシフトや不純物効果の実験とコンシステントである。 3.Na量xが0.75に近づくと、x>0.75で実現する面内強磁性・面間反強磁性の磁気揺らぎの効果により電子比熱係数が急増し、x〜0.75では実験とコンシステントな巨大熱起電力が現れる。 4.x=0.5のとき、Naイオンの1次元整列の効果によりフェルミ面のネスティングが増加し、反強磁性がTc1で実現する。さらに、Tc2以下では反強磁性秩序に加えて軌道秩序と電荷秩序が重ねて起こり、絶縁体に転移する。これは、Na_<0.5>CoO_22段転移の実験をよく説明する。
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