研究概要 |
固体物理学の重要課題のひとつは,強相関電子系物質に見られる新奇量子凝縮現象の探索とその発現機構の解明にある.具体的には,モットの金属一絶縁体転移,遍歴電子磁性,エキゾチック超伝導,巨大磁気抵抗などが知られている.また,それらの発現機構を理解するため,量子臨界点,低次元性,スピン揺らぎ,マージナルフェルミ液体論,軌道秩序などの新概念が提唱されている.中でも,Ru酸化物では,Sr_2RuO_4のp波超伝導やCa_2RuO_4の反強磁性モット絶縁体,モット転移,遍歴電子磁性など,他に類を見ないほど多彩な量子現象が現れる.我々はCa_2RuO_4が圧力下で示す様々な量子凝縮現象の探索とその理解を目指している. 平成17年度の主な成果を以下に示す. 1)高圧力下のX線・中性線回折実験を行い,圧力下の構造変化の詳細を明らかにした.金属絶縁体転移や磁気相転移がRuO6 8面体の動きに対応して現れることがわかった. 2)4GPa発生する小型ピストンシリンダー圧力セルの開発と磁場誘起金属-絶縁体転移 磁場中(QD社製PPMS)や希釈冷凍機中で使用可能な小型ピストンシリンダー型圧力装置を開発し,多重極端条件下(圧力4GPa,磁場14T,温度50mK)で,交流磁化率,電気抵抗の測定が可能にした.その結果,加圧されたCa_2RuO_4は,金属-絶縁体転移が磁場で誘起され,低温で150%の正の磁気抵抗を示すことを明らかにした. 3)圧力誘起強磁性の出現過程と遍歴性 反強磁性モット絶縁体Ca_2RuO_4は0.5GPaの加圧で強磁性を基底状態に持つ2次元金属となる.17年度では反強磁性-強磁性転移の過程を詳細に調べ,0.1GPaの加圧で常圧とは異なる反強磁性相が存在し,0.1〜1GPaで強磁性と反強磁性が共存する.1GPa以上で反強磁性が消失し,そこで圧力誘起した強磁性は遍歴磁性であることを,磁化過程と常磁性磁化率から明らかにした.
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