YbAgGeは六方晶ZrNiAl型構造をもち、0.8Kと0.65Kで2段の反強磁性転移を示す。この化合物中のYbイオンは幾何学的フラストレーションを示す擬カゴメ格子の配列をしている。1.6GPa以上の圧力で急激に増大する磁気転移温度の振る舞いは近藤効果とRKKY相互作用との競合では理解できず、磁気フラストレーションの緩和を示唆する。 そこで、本研究では、上記の予想を確かめ、YbAgGeの基底状態に対する幾何学的フラストレーションの影響を調べることを目的とした。本年度は3GPaまでの静水圧下における単結晶YbAgGeの比熱と磁場中電気抵抗を測定した。その結果、転移温度付近のカプス状の比熱の振る舞いが、約1GPa以上で非常に鋭く大きなピークに成長し、さらに、1.6GPa以上ではフラストレーションのない通常の磁気転移で見られるラムダ型の振る舞いに変化した。比熱から見積もった磁気転移温度における磁気エントロピーS_mは1.6GPa以上で急増した。転移温度以上でのS_mの圧力変化がほとんどないことから、この磁気転移温度でのS_mの急増は加圧による近藤温度の低下ではなく、磁気フラストレーションの部分的な緩和によるエントロピーの回復を示唆する。圧力下磁場中電気抵抗の結果から、圧力下における磁場-温度相図上で多数の磁気秩序相が出現することが分かった。このことは磁気フラストレーションによる多くの縮退した秩序相の存在を示唆する。
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