交互積層型電荷移動錯体(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)の中性・イオン性転移の圧力下ESRによる結果を踏まえて、類以物質の中性・イオン性転移について研究を行った。 1.(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)の室温におけるESR強度(電子スピン磁化率に相当)の圧力依存性測定を予定していたが、2GPa以上の加圧に必要な圧力セルの部品に不具合が生じたため、同様に常温・常圧で中性であるBO(EtO)_2TCNgについて、2GPQ以下の測定を行った。(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)では、加圧でドナー・アクセプター間の距離が縮小し、マーデルングエネルギーを得することにより中性相からイオン性相へ転移し磁化率の増加が観測される。これに対してBO(EtO)_2TCNQでは、(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)で磁化率が飽和する1.5GPaでも中性のままであった。これは赤外吸収からわかるように、BO(EtO)_2TCNQの方が電荷移動バンドエネルギーが若干大きく、中性・イオン性両相の境界からより離れていることに対応すると見られる。さらに圧力を上げた時に同様にイオン性相に転移するかどうか興味が持たれる。 2.(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)の高圧力下でのESR強度の温度依存性の測定も1.に挙げた理由で来年度行うこととした。 3.(BEDO-TTF)(Cl_2TCNQ)は常温・常圧でイオン性相にあり、さらに、BEDO-TTF分子間の相互作用のために一次元性が押さえられスピン・パイエルス転移を起こさずスピンが生き残っている特徴を持つ。常圧、120K付近で分子変位を伴う転移によりスピン磁化率が減少する。この転移の圧力依存性を調べてきたが、圧力に対するヒステリシスがあることがわかり再測定が必要であった。今回、圧力を徐々に上げながらESR強度の測定を行ったところ、この転移は圧力に非常に敏感であり、0.1GPaで高温相が安定化されることが確認された。 なお、2GPa以上の加圧用のセルの用意ができ当初の予定の測定にかかり始めている。
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