本年度は、磁性を持つ2価金属イオンとして、Mnを導入したMn-DNAの物性を調べた。概要を以下に整理する。 1.MnイオンをドープしたMn-DNAの合成 原子として磁性を持ちうる遷移金属イオンとして、MnCl_2水溶液を用いてMnイオンをDNAに導入し、その電子状態を調べた。DNA水溶液とMnCl_2水溶液を混合することにより、MnイオンがDNA中に配位した、Mn-DNAの合成が出来る。この時に、Mnの黒色酸化物の生成を防ぐために、中性の水溶液を用いた。その後、-15度C程度の冷やしたエチルアルコールを等量以上加え、Mn-DNAを沈殿させる。綿のように絡んだ沈殿物を分離し、純エタノール中で超音波洗浄した後、フィルムとしてキャストした。外観は、無色透明のフィルムで、2価のMnイオンの導入が、DNA本来のエネルギーギャップを持つ半導体的な性質を大きくは変えていないことが推測できる。 2.Mn-DNAの電子状態と磁性 まず、SQUID磁束計を用い、磁化率の測定を行った。キュリーワイス温度が1K前後のキュリーワイス則に従い、2Kで測定した磁化曲線は、スピンS=5/2のブリルアン関数で綺麗に再現できた。 次に、XバンドESRの測定を行った。ESRスペクトルは、予想通りS=5/2のスピンに期待されるg値がほぼ2を持つローレンツィアンとガウシアンの中間の線形が得られた。一方、雰囲気を脱気することにより水蒸気圧を下げて測ると、線形が単一のローレンツィアン型に変わった。 この変化は、雰囲気水蒸気圧にDNAの構造が依存することから来ると期待される。水蒸気圧が高い時には、DNA骨格内に水分子が多数配位し、生体中で安定な構造である有名な2重螺旋構造のB-formを取る。この時のMnの位置は、J.Lee氏が提案した、2重螺旋の階段を構成する塩基対の水素結合と入れ替わった中央に来ると期待できる。即ち、Mnイオン鎖はほぼ1次元的な鎖を構成すると考えられる。 そこで、B-formのMn-DNAのESRスペクトルの線形を解析したところ、1次元磁性体に期待される典型的な線形になっていることが示され、実際に、Mnイオン鎖が、塩基対の中心に配位した1次元構造を取っていると考えられる。 この結果は、Mnイオン間の双極子相互作用からも確認できた。低水蒸気圧下のA-formでは、Mnイオンは3次元的に広がった構造を取り、3次元で期待される線形を取ったことが理解され、DNAが、磁性などの物性研究の新たな舞台として使えることが示された。
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