研究概要 |
強相関電子系の大きな特徴として、軌道、電荷、スピンの自由度の協力あるいは競合により多様な性質を発現することがあげられる。遷移金属酸化物にはこれらを実現する数多くの化合物が存在するため、世界的に実験、理論両面からの広範囲な研究が盛んに行われている。本研究では、電荷やスピンの秩序に起因した興味ある現象を、構造、磁性の観点から研究するために中性子散乱実験を行った。 第一の研究対象としては、高温超伝導体及びその関連物質等の低次元磁性体を取り上げ、電荷ドープにともなう磁性の変化を調べた。一次元電子系ではCuO_2鎖にホールドープが可能なCa_<2+x>Y_<2-x>Cu_5O_<10>、二次元電子系では銅酸化物超伝導体であるLa_<2-x>Sr_xCuO_4の中性子散乱研究を行い、その結果、ドープされたホールが何らかの整列状態に向かうことは、次元に関わらず普遍的な現象であることを示した。 第二に、幾何学的フラストレーションに起因した興味ある磁性を研究するために、スピネル型化合物の研究を行った。この系では、結晶構造と磁気秩序が密接に関連しているが、さらに電荷や軌道の自由度が加わることにより多彩な物性を示すことが知られている。本研究では、主として、フラストレーションとスピン-格子相互作用に起因した磁性と構造の相関を研究するために、軌道の自由度を持たないCr^<3+>(S=3/2)をベースとしたスピネル型磁性体の研究を行った。ACr_2O_4(A=Cd,Hg)のゼロ磁場及び磁場中(磁化プラトー相)の結晶構造、スピン構造を明らかにすることにより、磁気秩序を安定化させるように結晶構造が変化することを明らかにし、これらの物質における強いスピン-格子相互作用を示した。
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