1.本研究は、発散も持たない漸近解析理論を発展させて、理論物理学の実際の問題に適用することを目的とする。漸近解析理論は、微分方程式に対して用いられるとき、WKB法として具体化される。また、それが積分表示に対して用いられるとき、鞍点法として具体化される。WKB法における発散とは、微分方程式の転回点において、WKB解が発散して破綻することを言う。鞍点法における発散とは、複数の鞍点が衝突するときに、漸近評価が発散して破綻することを言う。漸近解析理論は数理科学全般で極めて重要な手法として用いられてきたが、これらの発散が有用性を厳しく制限してきた。2.我々自身の先行研究によって、微分方程式に対するWKB法からこの発散を除去した「発散を持たないWKB法」を構築することが既に成功していた。鍵となったのは、量子揺らぎを非摂動論的に取り込んだ古典動力学を用いることであった。本研究は、この微分方程式に対する発散を持たないWKB法を積分に対する鞍点法に翻訳する作業から開始した。3.翻訳作業のために、鞍点法における大域的解析の精密な記述を可能にする枠組みをグラフ理論を全面的に利用することにより構築した。その結果は第1論文として既に出版した。4.それを用いて、発散を持たないWKB法のうちで最も原始的なcubic WKB法を積分に対する鞍点法に翻訳することに成功した。この新しい鞍点法は完全には発散も持たないようにはならなかった。しかし、翻訳の過程で鞍点法から発散を除去するための鍵は積分変数の選択を最適化することにあることがわかった。この結果は第2論文として既に出版した。5.さらに、積分変数の選択を改良した「最小敏感性の原理に基づく鞍点法」を構築した。この鞍点法は実際に発散を持たない鞍点法となった。つまり、この研究の目的の重要な部分が成就された。この結果はこれから第3論文として公表予定である。
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