本研究は、散逸構造としてのキラル対称性の破れを、化学反応系において実験的に実現させることをその最終目標とし、3年計画の最終年度にあたる本年度は、1.キラル自触媒的に進行することが報告されている化学反応について、その機構を速度論的に解析することを試みた。2.1.のキラル自触媒反応とほぼ同様な化学物質問の反応において観察される不斉増幅現象について、そのメカニズムの検討を行なった。まず1.については、ピリミジンアルデヒドとジイソプロピル亜鉛との反応について解析を行ない、1)反応を開始する際のジイソプロピル亜鉛のピリミジンアルデヒドに対するモル比がある一定の値を越えないと反応がほとんど進行しないこと、2)同条件で反応を行なっても反応が進行する場合とほとんど進行しない場合があり、反応中に起こる沈殿形成が反応の進行に影響を与えているようであること、3)反応が進行する場合は自触媒的に進行すること、の3点が見いだされた。また2.については、チタニウムテトライソプロポキシドおよびジアミノシクロヘキサンビストリフルアミドを触媒として、ベンズアルデヒドとジエチル亜鉛を反応させた場合、沈殿の形成およびその再溶解の過程が、反応速度および生成物の光学純度に大きく影響を与えることが明らかとなった。このことは、今後1.のキラル自触媒反応についてさらなる解析する上で、非常に重要な情報である。なお、この内容は学術論文として投稿され、Chirahty誌への掲載が決定している。(このジャーナルのWeb上にはすでに掲載されている。)
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