研究概要 |
本研究は、散逸構造としてのキラル対称性の破れを、化学反応系において実験的に実現させることを目標とし、 1.キラル自触媒的に進行することが報告されている化学反応について、その機構の解析を試みた。 2.1.の反応とほぼ同様な物質間の化学反応において観察される不斉増幅現象について、そのメカニズムの検討を行なった。 3.結晶化系において自発的にキラリティーが発現する現象を説明するための、結晶成長における両鏡像異性体存在比の空間不均一性を加味したモデルを検討した。 まず1.については、ピリミジンアルデヒドとジイソプロピル亜鉛との反応について解析を行ない、反応中に起こる沈殿形成が反応の進行に影響を与えていることが確認された。また2.については、チタニウムテトライソプロポキシドおよびジアミノシクロヘキサンビストリフルアミドを触媒として、ベンズアルデヒドとジエチル亜鉛を反応させた場合、沈殿の形成およびその再溶解の過程が、反応速度および生成物の光学純度に大きく影響を与えることが明らかとなった。このことは、今後1.のキラル自触媒反応についてさらなる解析をする上で、非常に重要な情報である。そして3.については、キラル自触媒的に進行する1,1'-ゼナフチルの結晶化における空間不均一性を考慮に入れたモデルに基づくシミュレーションを行ない、実験により観察される試行毎の結晶相の光学純度の変動が、再現できることが確認された。これら研究成果により、散逸構造としてのキラル対称性の破れを化学反応系において実験的に実現させるための、重要なアプローチ手法が開発される可能性がある。
|