研究概要 |
1.3次元ベッセル橋と呼ばれる時間的に非斉次な1次元拡散過程は,非負条件を課した1次元ブラウン運動に対して,さらに初期位置と時刻1での終位置をともに原点とするという条件を課すことによって実現できる.この期間1の間の最大値のモーメントは,整数論で重要な役割を果たすリーマンのゼータ関数で表される.我々はこの結果を,まず非衝突条件を課した2本の3次元ベッセル橋に拡張した.その結果,最大値のモーメントは二重ディリクレ級数で表されことが分かった.次にこの結果を任意の本数Nの非衝突ベッセル橋に拡張した.N本の非衝突ベッセル橋の最大値分布関数は,各成分がヤコビの楕円テータ関数の導関数に関係する関数で与えられる,サイズNの行列式で表される.この結果は,国内および海外の研究者から注目を集めている. 2.ランダム行列の確率過程論への応用として非衝突ブラウン運動を研究してきたが,その集大成として,任意の初期配置に対する時間・空間相関関数を一般的かつ厳密に定めることに成功した.この計算には多重直交行列と呼ばれる特殊関数を用いるため,数理物理学としても興味深い. 3.量子ウォークの極限分布の研究はランダム行列理論の新たな応用分野として将来性があるが,我々は2次元量子ウォークの擬速度の極限分布を一般の初期量子ビットと任意のパラメータに対して決めることに成功した. 4.統計力学模型の臨界現象に伴う曲線やフラクタル曲線を統一的に扱う新しい数学理論として,Schramm-Loewner方程式(SLE)が確率論の分野で注目を集めている.この方程式の解のパラメータ依存性は,ランダム行列理論で重要なベッセル過程と呼ばれる1次元拡散方程式の初期値問題の空間次元依存性と関係が深いことに着目して考察を行った.
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