研究概要 |
前年度に引き続き第一原理からの構造ガラスの理論,通称モード結合理論(MCT)を小さな展開パラメータを含む形での再定式化研究を行った。これまで行われた場の理論的手法の場の理論の欠陥は,揺動-散逸関係を満たさないことであった。最近この点が改良された理論(著者の頭文字を取りABL理論と呼ばれる)が提案された。しかしこの理論は次の点で不満足である:(1)理想気体に応用したとき密度の揺らぎは正しい拡散方程式に従わない。(2)1ループ近似で期待されるゲッツェのMCT方程式が出ない。川崎と研究協力者金峰秀氏と共同研究でえられた我々の新しい理論はこの2点で満足する結果が得られている。この詳細な報告はJournalofStatisticalMechanics誌に掲載された。またMCT及び関連事項について幾つかの講演を依頼された。これに関連して,動的密度汎関数理論を1変数のモデルに適用して数値解析を行うための定式化を加藤,熊谷両教授と共同で行った。加藤は,ランダム磁性体の相転移の観測時間依存性を動的モンテカルロシミュレーションによって計算し,核磁気共鳴スピンエコーによる実験結果と半定量的に一致する結果を得た。また,周期構造でありながら,構造的な理由で強いフラストレーションを持つパイロクロア磁性体について,熱浴法およびマルチカノニカル法のモンテカルロシミュレーションを用いて,低温の構造がスピングラスであること,短距離秩序としてフェリ磁性を示すことを明らかにした。熊谷は,有効相互作用を決定するユニタリー相関演算子法(UMOA)を用いてHe4核の基底状態を計算し,厳密解を与えるヤクボフスキー法による計算結果と比較して,かなり良い結果を得た。
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