研究概要 |
構造ガラスのモード結合理論(MCT)は幾多の実験結果を第一原理から説明することに成功し、近年ますます注目を浴びている。それにも拘わらず用いられた近似の性格が甚だ不明確で議論をよんできた。この問題について確信のもてる回答を与える一つの方法は、人工的ではあるが問題の本質のある面をとらえた模型を作りそれを徹底的に研究することが有効である[1-12]。一方、組織的な展開法に基づいた構造ガラスの研究は、本研究代表者により2003年に始めて試みられた。展開の最初の項だけとれば標準MCT方程式を再現する事がわかったが、高次展開を試みる段階で、理論が揺動-散逸定理を満たさないという欠陥に直面した。これに対して、Biroli達により提案された補助変数を導入する場の理論的方法の改良版を用いる事によってこの困難が回避され、満足すべき場の理論的定式化に成功した[1-1,1-4]。この新しい理論は、1-ループ近似の範囲で、標準MCT方程式を再導出できる事が確認されている。この為にKIMと川崎の新しい理論は展開パラメータによる高次の展開、即ち1-ループ近似を超える計算を可能にしている。これとは別に、モード結合理論と密接に関連している動的密度汎関数理論の方法がある。この理論は、MCTで欠け落ちていた熱的活性化過程を自然にとりいれている。一方、この理論には決定論的なバージョンと確率論的なバージョンとがあって論争が起きている。我々はこの両者を含む、より一般的な理論を射影演算子法を用いて定式化した[1-10,1-11]。
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