研究概要 |
イオン源の安定度の向上・超音速ノズルビーム強度の向上を図った交差分子線装置を用いて,以下のような測定を行った.得られた結果は,現在解析中である. (1)He^++He, He^<2+>+He系での弾性散乱微分断面積を10eV領域で測定し,既報のデータと比較した.この測定より,用いている実験装置から得られるデータの信頼性が十分であることを確認した. (2)C^+,C^<2+>,N^+,N^<2+>,N3^+,0^+,0^<2+>,0^<3+>を入射イオンとし,Heを標的として弾性散乱および一電子移行過程の微分断面積を測定した.入射イオンの速度を同じにして等核系列での測定を行い,相互作用ポテンシャルの電子数依存性が明確になる条件での測定としている.重いイオンを軽い標的に衝突させている為,重心系での散乱角度約10°から170°程についてのデータが得られている.このデータは低エネルギー衝突実験で最も大切な量の一つである衝突エネルギーの校正にも用いることができ,現在の実験方法の信頼度向上に役立てることもできた. (3)弾性散乱と同時に,非弾性過程である一電子移行過程も同時に測定することより,衝突を支配する相互作用ポテンシャルに関する知見がより明確に得られることも判明した.N^<2+>+He系においては,一電子移行過程が非常に強く前方方向に現われる.これは,相互作用ポテンシャルに強い引力部分がある為のglory散乱であるが,弾性散乱には明確な引力効果が見られなかった.このことは,弾性散乱には非弾性過程に関わらない項からの寄与が強い事の反映と思われる.それに対し,0^<2+>+He系においては,一電子移行過程および弾性散乱微分断面積に明瞭な振動構造が現われた.すなわち,弾性散乱・非弾性散乱に共通のポテンシャルが主に関わっているらしいことが予想される.この振動構造はStuckelberg振動に属するものと思われる.このような,衝突系毎の個性と共通性の両面を捕らえた解析の必要性が認識されつつある.
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