原子・分子に光をあてると励起され、励起状態は光や電子を放出して崩壊する。近年における実験技術の向上は、中間状態の寿命を超える長時間の量子力学的な相関が光励起過程と崩壊過程の間に存在して、これが観測可能になったことを示した。この事は、光励起状態の生成とその崩壊という二段階過程がその素朴な意味においては成立しないことを意味する。 本研究では、二段階過程のモデルがどのように修正・精密化されるべきか明らかにし、励起と崩壊の間の時間相関を制御する方法を探る。平成17年度は、本研究の1年目なので主として研究の環境を整えることに力を注いだ。 (1)PCワークステーション1台を既存のワークステーションのクラスタに追加し、計算機環境の強化を図った。ワークステーションはIntel Xeon 64bit CPU x2+MMU 4GB+1.6TB RMD HDDからなるシステムである。現在、アプリケーションソフトウエアの64bit化に取り組んでいるが平成18年度前半に完成の予定である。 (2)本研究を企画する契機のひとつとなった、カリウム原子のウインドウ型の共鳴光吸収スペクトルの生成メカニズムについて、time dependentな定式化を行い論文にまとめた。L-S結合による、時間軸に沿った、スピンと軌道角運動量のmigrationがスペクトルの形を特徴付けることを議論した。 (3)いくつかの原子種に対して内殻励起状態の電子状態について、および、その崩壊過程についての、微細構造副準位を識別できる程度の精度での計算を行う。このような目的に沿って、いくつかの計算を行い、主として多電子相関の観点から結果を纏めて論文(3件)に纏めた。 (4)内殻励起の遷移確率振幅の間の時間相関についての干渉効果の表現のために、3次元可視化ソフトウエアの利用技術を習得し、実際の利用に供すべくソフトウエアの整備を行った。
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