1.不凍タンパク質分子による成長抑制効果が大きい氷界面({1010}界面)および成長抑制効果が小さい氷界面({0001}界面)の分子レベル構造を分子動力学シミュレーションにより調べた。構造解析の結果より、{1010}界面の構造は{0001}界面に比べて不凍糖タンパク質分子の吸着サイトがフィットしやすいと考察された。このことは、氷{1010}界面方向の成長が不凍糖タンパク質により抑制されやすいというマクロな実験結果を定性的に説明する。 2.不凍タンパク質分子を構成する単位ポリペプチド(アラニン-スレオニン-アラニン+糖)のポテンシャルパラメータ、および6サイト水分子モデルとの相互作用パラメータを決定した。決定したポテンシャルパラメータを用いて、単位ポリペプチドに含まれるスレオニン残基への水分子の吸着エネルギー・吸着構造、またスレオニン残基の氷界面への吸着状態をシミュレーションにより解析した。特にスレオニンのOH基周辺やアミノ基周辺への水分子の吸着がエネルギー的に安定であった。また、氷界面上への吸着もOH基やアミノ基が氷界面側に向いた状態がエネルギー的に安定であることがわかった。しかし、氷界面による吸着エネルギーの違いは小さく、マクロな成長抑制の界面方位依存性を説明するためにはポリペプチドの長さや糖鎖の影響を考慮することが重要であると考察される。 3.不凍糖タンパク質水溶液からの氷の結晶成長実験を行い、成長速度の氷結晶面方位依存性・成長ステップ移動ダイナミクス・界面における不凍タンパク質分子の濃度分布などを解析した。 4.平成18年度は、ポリペプチドの長さや糖の効果を考慮した不凍糖タンパク質分子モデルを用いた大規模なシミュレーションを実施する予定である。
|