|
不凍糖タンパク質による氷の成長抑制に関する大規模分子動力学シミュレーションおよび不凍糖タンパク質水溶液からの氷の結晶成長実験を実施し、それらの結果を比較・検討することにより不凍糖タンパク質による水の結晶化抑制機構の物理的本質を考察した。具体的な研究成果は次の通りである。
1.不凍糖タンパク質のモデルとしてシンプルな構造を持つ代表的な不凍タンパク質を用い、それが吸着した氷-水界面の大規模分子動力学シミュレーションを実施した結果、氷ピラミッド界面に安定吸着したタンパク質周辺においてのみ氷の成長抑制が起こった。これは、吸着タンパク質周辺に成長した氷が曲率を持つことに起因した融点降下によるものであることがわかった。また、タンパク質の氷界面吸着の安定性は、吸着エネルギーだけでなくタンパク質の構造と周辺に成長した氷の構造とのマッチングにも強く依存することがわかった。
2.不凍糖タンパク質周辺で氷が成長する際の構成ペプチド疎水基周辺の水分子の秩序配列化過程が、疎水性ガス分子周辺の水分子のクラスレート構造化過程と定性的に類似していることが分子動力学シミュレーションによりわかった。
3.不凍糖タンパク質水溶液からの氷の結晶成長実験により、不凍糖タンパク質が氷ピラミッド面の成長を強く抑制することがわかった。また、不凍糖タンパク質は氷界面においてシンプルな不凍タンパク質と類似した吸着構造をとる可能性があることもわかった。
4.シミュレーション結果と実験結果を総合的に比較・検討し、不凍糖タンパク質による水の結晶化抑制の物理的本質を検討した。不凍糖タンパク質による水の結晶化抑制は氷ピラミッド界面に安定吸着したタンパク質周辺に成長する氷の融点降下によるものであり、本研究のシミュレーションによりその詳細な機構が分子レベルで初めて与えられたものと結論付ける。
|
