地震や火山噴火に伴う電離層擾乱はドップラー観測などによって以前から知られていたが、我が国の稠密GPS観測網であるGEONETによって電離層全電子数(TEC)として手軽かつ高時間空間分解能で観測できるようになり、多くの知見が得られた。その一つが2003年9月26日の十勝沖地震に伴う電離層擾乱で、震源から上方に伝搬してきた音波が、電子の運動と地球磁場の相互作用であるローレンツ力を受けて生じる擾乱伝搬の方位依存性が明らかになった。また正確な伝搬速度が初めて求められ、この擾乱が地表を伝わるレーリー波や大気の内部重力波ではなく、音波によるものであることが明快に示された。この研究はヨーロッパの地球物理専門誌であるEPSL誌に2005年に出版された。 これらの知見を基礎に、スマトラ地震による電離層擾乱から震源過程を推定するという世界初の試みを行った。その結果地震計では捕らえられないゆっくりしたすべりがアンダマン諸島下の断層で生じたことを見出した。その論文は現在米国の専門誌JGR-SEで改訂作業中である。また2004年9月1日の浅間山の噴火に伴う電離層擾乱が確認された。これは火山噴火に伴う電離層擾乱の初めてのGPSによる観測である。アメリカの炭坑でエネルギー既知の発破を行った際に生じた電離層擾乱が過去に報告されているが、それとの比較により2004年浅間山噴火のエネルギーを推定することができた。この研究は現在米国の速報誌GRLに投稿中である。現在は2005年秋に三陸沖で発生した正断層型の地震と津波にともなう内部重力波がもたらした電離層擾乱の研究を行っている。
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