研究概要 |
微小地震のS波エンベロープの主要動継続時間は伝播距離の増加とともに増加し,その最大振幅は減少する.これは,地下構造の不均質性に起因する散乱と内部減衰とに起因するものと考えられる.本研究では,ランダム構造による前方散乱によって,これら双方を統一的かつ定量的に説明することに成功した[Saito et al.,2005].東北地方で観測された微小地震のS波初動から最大振幅の着信の遅れの計測を行い,波線経路が第4紀火山の下を通る場合にはこの遅れが大きく(散乱が強く,不均質が強い),火山と火山の隙間を通る場合には小さいこと(散乱が弱く,比較的均質)を発見した.さらに,その周波数依存性,伝播距離依存性から島弧の不均質の強さとスペクトル的特長を求めるインバージョン法の構築を行った.理論面では,波動場の高次モーメントに対する発展方程式を統計的に処理し,ランダム弾性媒質における高周波数ベクトル波のエンベロープを直接的に導出する数理的定式化に成功した[Korn and Sato,2005].一方,長い経過時間にわたるコーダ波を解析し,地球深部における散乱特性を定量的に明らかにすることにも成功した[Lee et al.,2005].散乱波のみならず雑微動の相互相関関数のスタックから,日本全国に展開したHi-net観測点の間のレーリー波伝達関数を抽出し,その群速度分布を求めることに成功した.今年度は,これらの研究成果をIASPEI国際会議ならびにAGU学会において発表した.
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