測量や段丘面高度のデータに粘弾性媒質を用いた定常的地殻変動も考慮した物理的に妥当な地震サイクルモデルを適用し、南関東地域で発生する大正型、元禄型地震の震源断層域の特定をめざして平成18年度は以下のことを行った。 元禄型地震に関しては、段丘面高度から元禄型地震のすべり分布を求めた。その結果、フィリピン海プレートの上面のみがすべったと仮定してインバージョンを行った結果、元禄地震は、房総半島の南端付近ですべり量が20mを超えることが示された。また、すべり分布の下限は、推定誤差が大きいので確定的ではないが、だいたい富津から勝浦付近にありそうであることが示された。また、プレートの相対運動による定常的な運動と地震時の変動、地震間の粘性緩和による変動、すべり遅れによる変動の分離を試みた。その結果、元禄地震のみによる地震間の変動は、定常的隆起がすべり遅れによる沈降を上回り、地震時に隆起したところでも地震間にゆっくり隆起することが示された。これは、これまで地震時に隆起した場所は地震間に沈降するという従来の考えと違うものである。我々のモデルが定常的変動を正しく取り入れているためこのような結果になったと考えられる。 プレート境界面形状に関するデータとして、房総半島の南沖で小海山の沈みこみがあることが観測結果(課題番号16204038 代表 千葉大 伊藤谷生)から示された。この小海山は、海成段丘のデータのある地域に近いので、この形状の変化は計算に大きく影響するものと思われる。そのため、この形状を考慮したプレート境界面を現在作成中である。
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