出発試料として、現在知られているもっとも鉄に富んだ鉄硫黄化合物であるFe3Sを、圧力20GPa程度、温度1300K程度の条件で、大型高圧装置を用いて合成を試みた。しかし回収試料の化学組成分析からFe3S組成の相は得られるものの、つねに酸化鉄がバブル状に含まれること、このために、全体組成が硫黄過剰にシフトしてしまい、より硫黄に富んだ相と共存してしまうことがわかった。吸着水を極力少なくすることを試みても改善が見られなかったので、試料が著しく酸化しやすいために、外部から試料室に酸素が進入することが防げないためと判断した。そのため、より外部との接触の少ないダイヤモンドアンビルセルを用いて、直接合成する方針に変更した。出発試料としてFeとFeSの混合物を用い、合成中のX線回折パターンにより合成の進行を判断するが、FeSの高圧相については20GPa以上の条件での安定構造がまだ知られていないので、まず、FeSの高圧相の相関係を調べることから始めた。これまでのところ、加圧のみで20-30GPa付近でこれまで報告されていない相に転移すること、80GPa程度までこの相が観察されること、また加熱によってさらに別の相に転移し、この相は110GPa程度まで高温と急冷後の室温で観察されることがわかった。これらの結果は、地球惑星科学連合大会で報告し、さらに詳細な解析後に論文にまとめる予定である。これらの結果をもとに、今後の方針としては、FeSの密度の測定を、300GPa程度を目標にさらに進めていくとともに、Fe3Sを合成し、より高い圧力での密度測定と安定性の検証を行っていこうと考えている。
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