出発試料として、現在知られているもっとも鉄に富んだ鉄硫黄化合物であるFe3Sを、圧力21GPa程度、温度1300K程度の条件で、大型高圧装置を用いて合成することを試みた。しかし回収試料の化学組成:分析からFe3S組成の相は得られるものの、つねに酸化鉄がバブル状に含まれること、このため、全体:組成が硫黄過剰にシフトし、Fe2Sと共存してしまうことがわかった。試料が酸化しやすく、試料室に酸素が進入することが防げないためと判断し、より外部との接触の少ないレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いて試料を合成し、X線回折その場観察、回収試料の高分解能走査電子顕微鏡(FE-SEM)による観察を行う方針に変更した。出発試料の一つとしてFeSを用いたが、その相関係は20GPa程度までしか知られていないので、まずこれをX線回折で調べることから始めた。その結果、30GPa程度以上の圧力で、新しい高圧相(Fe SVI)に相転移する事を発見した。この相は、斜方晶系の単位格子を持ち、既知の高圧相同様に、NiAs型の類似構造であるが、より歪んだ状態になっている事、相転移境界は室温のFeS III-VI境界が36GPa付近、高温(1300K)でのFeS IV-VI境界が30GPa付近であり、少なくとも180GPa程度まで安定で、FeS IV、Vと異なり、温度を室温まで下げても構造を保っことがわかった。平行して、Fe3Sの合成を試みた試料のFE-SEMによる観察を行った。FeとFeSの混合試料(全体組成Fe4S)を、25-60GPa程度に加圧した後、1500K程度で30分加熱し、回収した試料を観察したところ、Fe3S組成のところもあるが、Fe、FeS、Fe2S、Fe3S2も入り交じって観察された。このような手法は有効であるが、きれいな単相を合成するためには更に工夫が必要であることがわかった。
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