研究概要 |
対象流域である熊本県不知火町松合の試験流域において,量水堰の河川水位および流量の連続観測を行い,基本的な河川の流出特性を明らかにした.とくに,2005年7月の梅雨末期,同9月の台風時の降雨流出イベントに対応し集中観測を行い,降雨-土壌水-基盤岩地下水-流出水の水質・同位体特性を解明し,源流域スケールでの降雨流出過程における基盤岩地下水の役割を定量化した.風化基盤岩層より深部の岩盤内亀裂系からの地下水流出を定量化した事例は,おそらく世界でも最初であろう.9月の台風イベントでは,降雨流出時にボーリング孔の地下水位が観測されたため,水文プロセスに関わるすべての水試料が完全な形で回収された.このイベント時には,降雨に対し速やかな湧水の流量の増加とともに,降雨終了後に遅れて増水が生ずる現象が観測された.これには,基盤岩地下水の寄与が大きいことが,同位体や水質の解析から明らかになった.今後さらに詳細な解析を進めることにより,流出時の基盤岩地下水の流出経路,流出フラックスが定量化され,モデル化へ大きく進展することが期待される.本研究の成果により,従来斜面水文学において,風化基盤岩層までが小流域スケールの降雨流出過程に寄与する水文プロセスの生起場とされていた枠組みが,亀裂系基盤岩内部をも含めて考える必要があるというパラダイムシフトが生まれる可能性がある.
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