研究概要 |
昨年度に引き続き対象流域である熊本県不知火町松合の試験流域において,量水堰の河川水位および流量の連続観測を行い,基本的名河川の流出特性を明らかにした.とくに,2006年7月の梅雨末期には,過去4年間で最大規模の降雨流出イベントを観測することができ,降雨-土壌水-基盤岩地下水-流出水の水質・同位体特性を解明し,源流域スケールでの降雨流出過程における基盤岩地下水の役割を定量化した.大規模イベント時には,基盤岩地下水,および流出水ともに溶存成分濃度が顕著に低下する傾向がみられた.また,土壌層内にも飽和地下水面が観測されたが,これは土層中の降下浸透によって形成されたのではなく,基盤岩地下水面の上昇によって観測されたものと判断された.すなわち,基盤岩地下水が土層中まで上昇したことにより,土壌水と基盤岩地下水との混合が生じ,これが流出水の溶存成分濃度を低下させた一員になったものと考えられる.本研究の成果により,従来斜面水文学において,風化基盤岩層までが小流域スケールの降雨流出過程に寄与する水文プロセスの生起場とされていた枠組みが,亀裂系基盤岩内部をも含めて考える必要があるというパラダイムシフトが生まれるものと期待される.
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