過去最大規模のオゾンホールが現れた2003年に、南極昭和基地でオゾンゾンデによる93回のオゾン層観測を行った。これに加え、同時期のILAS-IIによる衛星観測データを用いて、オゾンの回復の力学過程を研究した。 1.オゾン層の破壊と回復の季節進行 まず、オゾン分圧の高度プロファイルの時間変化を調べた。オゾンホール極大期である10月上旬までは、オゾン層は全高度領域でほぼ同時に破壊されて行くが、オゾン回復は上層から始まり、オゾンホール消滅の12月上旬までオゾンピーク高度は徐々に下がることが分かった。このような上からの回復は、これまで、極渦崩壊が上から始まることと対応するとされてきた。しかし、客観解析データを用いて、温位渦位座標系での詳細な極渦の時間変化を調べたところ、この上からの回復は、極渦崩壊以前から進んでいたことがわかった。これは主に残差循環に伴う低緯度からのオゾン輸送によると考えられる。 2.オゾン回復速度の経度依存性 次に、オゾン混合比を用いて回復速度を定量的に調べた。ILAS-IIの最後の観測期間である9月下旬からの1ヶ月に注目した。昭和基地の経度域での見積りは、衛星およびオゾンゾンデ観測共によく一致したが、この回復速度は経度により大きく異なることが明らかとなった。客観解析データを用いて力学場を調べてみると、期間中、準停滞惑星波が南極上空に卓越していた。この惑星波の緩やかな時間変化に伴う物質面の変形を考慮すると、オゾン回復速度の経度依存性がうまく説明できることがわかった。さらに、残差循環の南極での下降速度をILAS-IIのN_2O観測データを用いて調べた。すると、オゾン回復は残差循環による輸送以上に速かった。これは、通常考慮されない重力波や乱流等の小規模擾乱による低緯度空気との混合が重要であることを示唆する。来年度はこの視点で研究を進める。なお、以上の成果は、論文にまとめ、アメリカ地球物理学連合の論文誌JGRに投稿した。
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