本年度は、本州弧中央部に広域に分布する丹生川火砕流堆積物(前期第四紀)およびそれに対比される広域テフラの野外地質調査を行った。その結果、測定に適していると判断された試料を採取し、スピナー磁力計で残留磁化を測定した。磁化の安定性は段階的熱消磁ならびに交流消磁実験で評価し、採取地点ごとの平均磁化方位をもとめた。溶結した火砕流堆積物は強磁性鉱物の高温酸化が進行することで極めて安定な磁化を保持する場合が多く、採取地点のほとんどで安定磁化方位を決定することができた。残留磁化ベクトルの方位に地層の傾動の影響を補正するために、データを採用した地点すべてで初磁化率異方性測定と定方位薄片観察を行い、補正に必要な情報を取得した。磁化を担っている強磁性鉱物の種類を決定するため、極低温での鉱物変態を観察するとともに、設備備品として購入したパルス磁化器を用いて等温残留磁化の段階的獲得実験を行い、保磁力スペクトルを分離することで含まれる鉱物種を推定した。さらに直交三方向に着磁した等温残留磁化の段階熱消磁実験を行うことで、各強磁性鉱物のアンブロッキング温度を確認し、推定が正しいことを証明した。以上の基礎的な古地磁気学的データ収集と並行して、変動帯で断層運動に随伴して生じる上部地殻の変形を定量的に評価するため、人工地震による反射法地震探査結果を解釈することで、島弧の会合部(たとえば北海道)でどのような規模の堆積盆がどれくらいの期間で形成されるのかを算定するケーススタディを行った。その成果は、多くの活断層の末端部で上部地殻の複雑な変形が生じている本州弧中央部でのテクトニクス解明にフィードバックすることができる。
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