本年度は、本州弧中央部の第四紀火山・鳥帽子岳を対象に、野外調査を行った。その結果、古地磁気測定に適していると判断された火山岩(主として安山岩溶岩)試料を19地点で採取し、スピナー磁力計で残留磁化を測定した。磁化の安定性は段階熱消磁ならびに段階交流消磁実験で評価し、地点ごとの平均磁化方位をもとめた。パルス磁化器を用いて等温残留磁化の段階的獲得実験を行い、保磁力スペクトルを分離することで岩石中に含まれる強磁性鉱物の種類を検討した。さらに、直交3方向に着磁させた等温残留磁化の段階熱消磁実験を行って、鉱物種を決定した。平均古地磁気方位(平成17年度の科学研究費補助金・基盤研究(C)の成果を含め、これまでに報告されているデータをすべてコンパイル)の空間分布に基づいて、上部地殻の変形(歪み)が集中している地域を特定し、人工衛星の精密測地データ(GPS)から最近発見され断層活動との関連が注目されている変形帯と比較検討した。以上の古地磁気・テクトニクス研究と並行して、変動帯でプレート運動に随伴して生じる上部地殻変形を定量的に評価する方法の開発のため、人工地震による反射法地震探査データを解析して、巨大地震の発生する沈み込み帯(たとえば東北日本の太平洋側)で過去数1000万年間の断層の発達過程を解明した。この成果は、数多くの活断層が存在して複雑な変形が生じている本州弧中央部のテクトニクス解明にフィードバックすることができた。古地磁気学的手法は、従来は長期問に累積したプレート規模の変形を記載するために用いられており、本研究のように第四紀という比較的短期間の変形を精密に評価したことは前例のない成果といえる。
|