研究概要 |
本年度は,まず,北九州の海域における現世貝形虫群集の生物地理を明確にするため,10月5日〜10日まで長崎県大村湾・佐世保湾にて,海洋調査を行った.大村湾内については測線を設定し,漁協を通じて借り上げた小型漁船にて,エクマンバージ式グラブ採泥器とソリネットを主に使用して,研究協力者(1名)と60地点から表層堆積物を採取し,主要な水質の測定も行った.試料は群集解析・分類学的研究を行うためのホルマリン固定用試料,DNA分析用のエタノール液浸試料,さらに全有機炭素,全窒素,全イオウ濃度分析のための試料に現地で分別した.研究室にて抽出された種については,走査型電子顕微鏡(JEOL T220A)を主に用いて,分類学的検討を現在行っているが,基本的には日本全国の閉鎖的内湾泥底に生息するBicornucythere bisanensisが圧倒的多数を占める群衆からなっていることが明らかになった.佐世保湾に関しては,十分な試料は今回採取できなかった.化石に関しては,10月27日〜30日に,九州に分布する上部第三系と第四系のうち,内湾性貝形虫化石が産生する宮崎県鮮新統宮崎層群高鍋層と更新統通山浜層から試料を採取した.前者については貝型虫群集の周期的な変動を復元するために,試料間隔をできるだけ密にして,電動コアラーを用いて採取を行った.結果として,高鍋層からはAcanthocythereis munechikai, Hirsutocythere hanaii, Loxoconcha sinensis, Neonesidea elegansなどの東シナ海で多産する暖流系種が産出し,現在,群集の垂直変化について,解析中である.また,堆積年代を決定するため,石灰質ナンノ化石についても検討中である.通山浜層に関しては,残念ながら今回採取した試料から貝形虫化石が得られなかった.
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